開館10周年記念展 横尾さんのパレット

「横尾さんのパレット」ポスター 2022 デザイン:横尾忠則
展覧会情報

 本展は、横尾忠則作品の特徴である鮮やかな色彩に着目し、約40年の画家活動を振り返る展覧会である。「ピンクガール」、「Y 字路」、「A.W. Mandala」、「寒山拾得」など歴代の代表的なシリーズを含む作品をテーマや様式から解放して色で分類、展示室をパレットに見立てたインスタレーションでヨコオワールドを再構築する。また、使用済みのパレットや公開制作で使用した絵具など、作品が生まれる背景も合わせて紹介。横尾さんの圧倒的な色の力を体感できるスペクタクルな空間をお楽しみ頂きたい。

【赤】 ファン・ゴッホの黄色、イヴ・クラインの深い青色のように、特定の色を想起させる作家がいる。では横尾忠則は何色だろう。グラフィック・デザイナー時代こそサイケデリックな色彩かもしれないが、画家転向後の横尾を象徴する色はおそらく赤であろう。横尾忠則=赤の印象を決定づけたのは 1996 年から描き始めた赤い絵画の連作で、少年時代に見た空襲で染まった赤い空に端を発する。このシリーズは、後に「赤の時代」と言われるほどに浸透し、「生と死」を描き続ける横尾のイメージと結びついた。もちろん横尾作品には多種多様の「赤」が存在するが、「横尾の赤」は、闇と融合した夜空の赤であり、生命エネルギーを感じさせる血の色であり、どこか湿り気のある不穏な赤だ。

【青】 「赤」と並んで横尾をイメージさせる色が「青」であろう。一般的に青は空や海を想起させる色であり、横尾作品の主要な題材である滝や宇宙につながる色でもある。ところが、横尾が青を用いて空や海を描く例は意外に少ない。横尾の青は、夜の闇や果てのない宇宙といった先の見えない不穏な空気をもたらし、肖像画においてさえ現実、現世と切り離されたような浮遊感をまとわせる。

【黄】 2020年から21年にかけ、コロナ禍で外出を控えざるを得ない状況で横尾はアトリエに籠り、意
欲的に制作に励んだ。東京都現代美術館で披露されたその新作群は、鬱屈した気分を晴らすかのような自由奔放な描法と主題が新たな境地への一歩を予感させるものであった。とりわけ透明感のある黄色が印象的で、半世紀以上に及ぶ画業を 600点余りの作品で振り返った後に光溢れる場所へ連れ出されたかのようだった。ありとあらゆる手法を試してきた横尾だが、これほど光を感じさせる作品が集中して現れることはなかった。それは横尾が、闇によって光を表現してきたからなのだろう。そして黄色は闇を表しにくい色である。とはいえ、「寒山拾得」シリーズをはじめとする新作が、横尾作品に通底する「生と死」のテーマから解放されたわけでもない。おそらく横尾は「死」という一線を越えた、「生」と鏡像関係にあるような彼岸を描いているのだ。

【緑】 その彼岸は、横尾の最新の小説の舞台でもありタイトルでもある「原郷の森」を抜けたところにあるのだろうか。横尾が描く森は、生命の蠢きを感じさせる謎めいた深遠さを持ち、深い緑で表現される。故郷の西脇や冒険小説を題材とする作品には 緑 が多用されている。それは小説『原郷の森』の舞台である横尾のアトリエ(緑に囲まれた黄色の建物である)と繋がっているように思える。過去と現在、さらにはあの世を繋ぐ森が、横尾の緑ではないだろうか。それらの場所を横尾は筆一本で行き来している。横尾作品を色別に分類すると、緑と黄色は互いに乗り入れることが多いのに気づく。それが集中的に現れるのは 1990 年代中頃、まさに少年時代と宇宙と神話が交錯する時期である。森の緑と、その向こうに開けた黄色の世界は、早くから横尾の中で繋がっていたのかもしれない。

【黒・色 彩】 グラフィックデザイナー時代より原色を大胆に用いた作品が特徴的であった横尾の、色彩における最初の転機が 1996 年の「赤の時代」であったとすれば、続く転機は 2000 年の「Y 字路」であったといえるだろう。夜の闇に浮かぶ Y 字路は、必然的に「黒」とのコンビネーションの中で描かれ
てきた。そして、2010 年の「黒い Y 字路」シリーズは、夜の Y 字路の描写としては一つの到達点であり、闇を表す黒と、絵具の物質的な黒とのせめぎ合いが新しさを感じさせた。一方、会場で「黒い Y 字路」と対照的に並ぶ色鮮やかな Y 字路は 2002 年の連作である。「暗く人通りのない夜の Y 字路」という自ら定めたルールを自ら破り、キャンバスは色彩豊かなパレットと化している。以後、「Y 字路」そのものがあらゆるテーマ、様式を受け入れながらヨコオワールドと一体化し、代表的なシリーズに展開する萌芽を感じさせる。本展では、Y 字路シリーズを中心に、横尾流のモノクロームとカラフルの両極を紹介する。

【パレット】 色とりどりの絵具がのった紙皿やペーパーパレットは横尾の制作の副産物である。本来使い捨てであるはずのそれらは、捨てられることなく積み重ねられてアトリエの風景となり、時には挿絵として書籍を彩り、時にはキャンバスの上で、絵画の構成物となり、時には額装されて作品となる。アトリエでの制作の際、横尾は床に並んだ絵具のチューブから直感的に色を選び取り、パレットに押し出す。その行為に横尾は霊感を期待するという。無意識から生まれるパレットと、成果物としての絵画はどこか似ている。パレットは横尾の分身が生み出した作品のようである。 

展覧会概要

開館10周年記念展  横尾さんのパレット
会期:2022年8月6日(土)~12月25日(日) 
会場:横尾忠則現代美術館
住所:兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
時間:10:00~18:00 (入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日[9月19日(月)・10月10日(月)は開館、9月20日(火)・10月 11日(火)は休館]
公式サイト:https://ytmoca.jp/

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